第17回神経心理特別診
まだ寒さの厳しい日が続いていますが、今回も多くの先生方にご参加いただき、特別診を
開催しました。今回は二人の患者さんを診察しました。
最初は、心肺停止蘇生後に記憶障害が残存している若年女性の方です。言語性記憶の評
価としてRey’s Auditory Verbal Learning Test (RAVLT)を施行したところ、学習曲線の平坦
化および干渉後の成績低下が目立ちました。Rey複雑図形による非言語性記憶検査では、
模写は正確でしたが、即時再生で成績が9.5/36と低下していました。この方はMRIでは低
酸素脳症で典型的にみられる両側淡蒼球病巣を認め、脳血流SPECTでは両側背外側前頭前
野に血流低下がみられました。この前頭前野の血流低下は、淡蒼球との神経回路を介した
遠隔効果(diaschisis)である可能性が考えられます。前頭葉機能についてはもう少し評価
が必要ですが、これまでの検査では明らかな障害はみられていません。本例で目立つ前向
性記憶障害は、低酸素に脆弱な海馬CA1領域の損傷による可能性が高いと考えられました
。
二例目は筋緊張性ジストロフィーの患者さんでした。筋緊張性ジストロフィーは筋疾患
ですが、認知機能障害を呈することもあるtriplet repeat病です。独協医大の小林聡朗先生
より、本疾患で構成障害が目立つ症例を経験されたとのご指摘がありましたが、確かに透
視立方体の模写が困難でした。一方、Frontal Assessment Battery (FAB)は15/18、Raven
色彩マトリックス検査は30/36で、いずれも概ね正常範囲内の成績でした。本疾患では特
有の心理学的症候があることはしばしば指摘されますが、詳細な神経心理学的研究は非常
に少なく、今後の重要な研究課題だと思います。
今回の抄読会では、国際医療福祉大学三田病院の時村瞭先生に、Salomon Eberhard
Henchenの論文(Über Sprach-, Musik- und Rechenmechanismen und ihre. Lokalisation im
Großhirn, 1919)を解説していただきました。Henschenはスェーデン人の神経内科医です
が、膨大な脳損傷例に基づいて高次脳機能の局在研究を行った先生です。1919年はBroca
やWernickeから大分たっていますが、それでもなお全体論(holism)がまだまだ影響力を
もっており、Henchenはこれを強く批判しました。今回取り上げた論文は、講演内容をも
とにまとめられたもののようですが、言語・計算・音楽という3つの機能の独立性を、豊
富な症例解析に基づいて主張しています。音楽に関する記載が豊富で、チェリストでもあ
る時村先生の解説は大変興味深いものでした。
懇親会は十条駅近くの「焼肉・麻布」にお邪魔しました。この会では初めてのお店でし
たが、女将の温かいおもてなしを受け、和やかな雰囲気の中で親睦を深めることができま
した。
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