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第15回神経心理特別診

 年の瀬を迎え、皆様ご多忙の中ではありましたが、今月も神経心理特別診を多くの方のご参加のもと開催することができました。二人の患者さんを診察しました。

 最初の患者さんは相貌失認を呈する方です。熟知相貌の評価には従来、VPTAが用いられてきましたが、検査に含まれる著名人が若い世代では知られていないなど、時代の変化とともに検査自体が成立しにくくなってきていました。そのため、VPTA-FFT ver. 2という、人物を一新した熟知相貌検査の改訂版が開発されており、今回はこれを用いました。

 その結果、人物の弁別・同定に選択的な障害が認められ、性別や老若の判断も困難でした。一方で、物品や建物の弁別・同定、色相分類などは保たれており、明らかな乖離がみられました。興味深いことに、アニメのキャラクターについてはほとんど同定が可能でした。これは相貌以外の手がかりが存在することに加え、誇張された顔貌特徴そのものが重要な手がかりになっている可能性が示唆され、非常に示唆に富む所見でした。

 二人目の患者さんは後部皮質萎縮症(PCA)の方です。字が読みにくい、コップを逆さまに持つ、目の前のものを取れない、といった症状があり、眼科を受診しても異常がないと言われたという、PCAに典型的な病歴がありました。家事では洗濯物をたたむことには問題がない一方で、料理ではレシピが読めないために新しい料理を作れないという訴えがあり、読字障害が病歴の中で顕著でした。この方にもVPTAの一部を施行しましたが、dot counting、錯綜図における物品同定、図形の模写はいずれも著しく困難でした。

 特別診の後の抄読会では、獨協医大の高橋嶺馬先生がDejerineの失読の原著論文” Contribution à l’étude anatomo-pathologique et clinique des différentes variétés de cécité verbale”を解説してくれました。離断症候群の原点というべき著明な論文ですが、フランス語の原文しかなくて詳細を知るのは困難でした。でも高橋先生のおかげで、その内容を深く理解することができました。

 Dejerineは、最初の脳卒中により読むことができなくなった患者を、驚くべき忍耐力をもって長期間フォローしています。文学的素養を有し、読字以外の知的機能が保たれている状態を言語盲(cécité verbale)と表現しています。この患者は二度目の脳梗塞により失読失書を呈した後に亡くなり剖検に至ります。最初の脳梗塞は左後頭葉一次視覚野を中心とし、脳梁膨大部を含む病変であり、二度目は左頭頂葉の病変でした。このように二度の脳梗塞で純粋失読から失読失書へと移行したきわめて貴重な症例であったことがわかります。半盲により左半球へ視覚情報が入力されず、右半球視覚野から言語を処理する左半球への入力が脳梁病変により離断するために失読が起こるという、古典的な離断症候群を記載した最初の症例報告と思っていましたが、実はこの論文では脳梁病変を重視しておらず、右半球からの入力が左後頭葉病変部で遮断されるという説明がされていることがわかりました。それでも離断の概念に到達したのは確かであり、Dejerineの並外れた観察力と情熱を感じ、皆が深い感銘を受けました。

 今回の懇親会は、十条駅の近くですが、知らなければ多分見つからない隠れ家的名店Bisteccheria Destinoにお邪魔しました。最初に巨大な骨付き肉塊を見せていただき、それを1時間以上かけてじっくり炭火で焼き上げていただきました。その間、本格的なパスタやワイン、そして尽きることのない会話を楽しみ、ついに焼きあがった肉が運ばれてきた瞬間には、思わず一同から感嘆の声が上がりました。

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