主任教授あいさつ
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病気と向き合う— 患者と向き合う
脳神経内科は、伝統的な症候学と最先端の脳神経科学がミックスして、オーソドックスとエクサイティングが溢れる診療科です。帝京大学脳神経内科学講座は、大学病院として最先端の医療を担うこと、深く臨床に根差した研究成果を発信すること、次世代の医療を担う社会のニーズにマッチした医療人を育てることを目標に、一同、日々真剣に、そして楽しく研鑚を積んでいます。
「診療」「教育」「研究」
大学病院には「診療」、「教育」、「研究」の三本柱があります。これらのミッションをバランスよく果たして行かなければなりません。そのために、私たちは協力し、団結しています。垂直方向にも水平方向にも風通しよく、臨床、教育、研究の各方面でお互いに助け合う、あたたかい人間関係のある職場を目指しています。特に、働き方改革への対応や、女性医師が安心して働ける職場を作ることを真剣に考えています。
診療について:信頼の積み重ね
私たちは、東京都区西北部医療圏を中心に埼玉県川口市・蕨市・戸田市の医療圏も含めて幅広く神経疾患を診療しています。一般に神経内科が難病疾患を専門に扱うという誤解がありますが、私たちは筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脊髄小脳変性症などの希少難病はもとより、めまい、しびれ、頭痛といった症状を含め幅広い疾患を対象に診療しています。例えば頭痛に悩む患者さんはとても多くて、片頭痛だけでも国内に1000万人ともいわれていますが、当科でも多くの頭痛患者を治療しています。また、認知症は高齢化に伴い増加の一途で、その数は600万人を超えるとみられていますが、当科の物忘れ外来では、地域の先生方から多くのご紹介を頂き、診療を行っています。また、全国に約15万人の患者がいると言われているパーキンソン病の診療にも力を入れています。地域医療への貢献としては、脳卒中診療はとても重要です。当院は三次救急医療機関・脳卒中学会コア施設の指定を受けており、脳神経内科、脳神経外科、救急科が連携してt-PA、血管内治療を含めた対応を24時間体制で行っています。
当科は神経電気診断における専門性を活かし、国内初の神経筋電気診断センターの看板を掲げています。筋萎縮性硬化症(ALS)、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、重症筋無力症(MG)をはじめ、診断に苦慮する症例について、広く他施設からのご紹介を受けて、電気生理学的手法に精通した専門医が診断を行っています。
以上、当科では脳血管障害、神経変性疾患、神経免疫疾患、遺伝性疾患を含む、脳神経内科領域全般にわたり、最先端の医療を提供しています。希少難病からcommon diseaseまで、地域の先生方のご紹介を受けて、専門的な立場から丁寧に診療することを使命としています。
教育について:人間の尊厳を見つめる
当科は医学部附属病院の診療科として、臨床の最前線で活躍する脳神経内科医を育成するための教育体制を整えています。初期研修医、後期研修医の実習を指導するほかに、神経学会認定の教育施設として、神経内科専門医研修カリキュラムに沿って専攻医の教育指導を担っています。また、医学部の学生の教育や大学院生の研究指導も私たちの重要なミッションです。
近年、専門医機構のイニシアチブで専門医制度が整備され、内科専門医、およびそのサブスペシャルティ―である神経内科専門医への道はより体系的になり、従来以上に高度な研修が求められています。限られた期間内に専門医機構が指定する多様な症例を経験し、症例登録を行うことが要求されていますが、当講座では、幅広い疾患の診療機会とベテラン指導医のもとで行われる手厚い指導により、充実した研修環境が整っていると自負しています。 専門研修においては、大学病院の枠を超えて外部医療機関で経験を積むことも重要で、専門医機構は外部医療機関での研修を義務付けています。我々は、多くの優れた医療機関と提携し、専攻医が外部ローテーションを通じて多角的な教育を受けられるように努めています。連携先については研修案内ページにて詳細リストをご覧ください。
当科で研修した専攻医の多くが、大学院へ進学し博士号を取得しています。大学院教育は、専門技術だけでなく、科学的な視点で臨床をとらえる能力を鍛える場として、臨床家としてのその後の長いキャリアの基盤となるものです。また、研究より臨床という方にも、日々の診療を通して、臨床医学に対する科学的アプローチが身につくよう、教育的な配慮を心がけています。個々の目標に合わせ、個性を尊重したキャリアパスの設計をサポートしたいと考えています。
臨床研修では医学知識と診療技術を身につけることがゴールなのでしょうか。医学は一生が学びですが、知識と技術はその一部に過ぎないと私たちは考えています。特に、神経内科では多くの難病患者の長期的なケアを担うため、その経過では人間的・社会的な深層に触れる問題を解決していかなければならない状況に数多く遭遇します。つまり、患者に寄り添う、人としての在り方が問われる仕事であり、医師として、人間としての深い洞察と共感が要求されます。私たちは、病気をしっかり診るのはもちろんのこと、人としての尊厳、在り方に目を向け、状況に応じた解決ができる医療人を育成することを使命と考えています。
研究について:臨床に直結した研究の場
当科では、神経筋疾患分子病態学、電気生理学、神経心理学という三つの主要な研究領域のそれぞれで、国際的な研究業績のある専門家が研究指導する体制をもち、大学院生が日々切磋琢磨しています。学位取得後には、希望者は海外に留学して、国際的人材としてキャリアを積む道が開かれています。これまでにも当科の多くのメンバーが留学経験を積み、充実した成果を持ち帰っています(留学者の声についてはこちらを参照)。神経生理学の研究室は筋電図や誘発電位といった電気診断の技術を活用して多くの重要な成果を発表してきました。当科では園生雅弘前主任教授の下で国内外から多くの臨床医や研究者を受け入れ、神経電気診断の専門医を育成するのと同時に多くの研究成果を発信してきました。分子病態学の研究室は当科の2代目教授である清水輝夫先生の時代に筋ジストロフィーの病態解明を目指す研究室として発展し、近年では筋疾患のほか、アルツハイマー病などの神経変性疾患の遺伝子治療の研究にも取り組んでいます。神経心理学研究室は私が着任してからの当講座で最も新しい研究室ですが、脳血管障害や神経変性疾患で出現する高次脳機能障害やパーキンソン病をはじめとする運動障害性疾患における不随意運動の病態を解明することを目標に、神経心理学的手法や神経画像のほか、AI技術を駆使した最先端の研究を目指しています。
2024年4月1日
小林俊輔