第14回神経心理特別診
すっかり寒くなりましたが、今月の神経心理特別診も多くの方にご参加いただきました。二人の患者さんを診察しました。
最初の患者さんは以前にもこの枠で拝見した意味性認知症の方です。今回はSALA VC12,13(語彙性判断)を施行しました。VC12は漢字単語を提示し、実在する言葉か否かを判断する課題です。例えば「浮力」は実在語、「短朝」は非実在語です。蛇口が「へび」と「くち」であることがわかっても熟語が何を意味するかわからないなど、実在語を非実在語とする誤りや、「招否」や「湿和」のような非実在語を「拒否」「温泉」と読み間違えて実在語とする偽陽性反応が多くみられました。全体の正解率は79(95/120)でした。VC13はひらがな、カタカナ、漢字で実在語と非実在語の判断をする課題ですが仮名では全く誤りが見られませんでした。全体として、低頻度の漢字熟語の意味理解に選択的に語彙判断の障害がみられました。
二人目の患者さんは右IC-PC動脈瘤破裂によるSAH後の方で、リハ科スタッフより注意障害が強いということで評価を行いました。病巣は右側脳室前方腹側を中心とする比較的後半な実質の障害が見られました。意識清明で検査に協力的でしたが、動作や応答が全般に緩慢で、全般性注意と耐容性の低下が目立ち、同じ課題を繰り返しても二度目の方が成績が低下する傾向がありました。抹消課題や線分二等分試験で半側空間無視は見られなかったのは、病巣が右半球でも前方腹側に位置したからだと思います。一方、Rey複雑図形検査では、5分後に描画したこと自体を全く覚えていないなど、前向性記憶障害が顕著でした。これは病変が前脳基底部を含むことに関係すると思われます。
抄読会は国際医療福祉大学の時村瞭先生がExnerの1881年の論文” Untersuchungen über die Localisation der Functionen in der Grosshirnrinde des Menschen”を解説してくださいました。Siegmund Exnerは書字中枢で有名ですが、オーストリアの比較生理学者でもあり、実は昆虫の複眼視をはじめ、視覚系を中心とした比較生理学研究を幅広く行っていたそうです。今回の論文も、書字中枢の論文だと思ったら全然違って、ヒトの剖検脳の膨大なマテリアルを整理して症候―病巣マッピングを行う、今日でいうvoxel-based lesion symptom mappingの先駆けのようなことを提案し、実行した研究でした。脳の機能局在論がようやく受け入れられたといった時代に、このような先駆的な発想をもち、精密な研究を行っていた研究者がいたことに、改めて驚かされました。
抄読会の後は、今回は趣向を変えて、仲宿の”La Familia”さんに初めてお邪魔しました。居酒屋といいながら、本格的なジビエ料理を提供する店で、上質のワインをreasonableな価格で楽しむことができました。貸し切り状態のなか、料理と会話を存分に堪能する事が出来ました。
< 戻る