第5回神経心理特別診
今回の神経心理特別診は、多くの学生の皆さん、リハビリテーション科のスタッフ、そして外部の先生にご参加いただき、2名の患者さんの診察と検査を行いました。最初の患者さんは左側頭葉腫瘍病巣の方で、右同名半盲、喚語困難を主体とする失語症、失読失書がみられました。書字に関しては、 ひらがなの書き取りはほぼ保たれているものの、漢字・数字は書けず、ハングルのような新造文字が目立ちました。また、 読字は高度に障害され、自分で書いたひらがなを読めないという、純粋失読で特徴的な現象がみられました。なぞり読みは無効でした。物品の呼称障害が、喚語困難なのか、視覚失認なのかが議論になりました。語頭音ヒントが無効でしたが、属性分類はできて、正解を教示された際に語の既知感は保たれている様子でした。一方、 物品を提示した際に見えにくそうな様子があり、図形の模写課題も難しく、視覚認知に問題はありそうですが、触覚により物品の呼称が可能になることはありませんでした。以上より、この症例の呼称障害は視覚失認より失語の要素が大きいと考えられました。
二人目の患者さんは、以前の特別診でも診察した両側Heubner梗塞後にpsychosisを呈する方のフォローアップでした。発症から3か月が経過していますが、意識レベルの変動や見当識障害が持続しています。かな拾いテストを行いましたが、注意が持続せず遂行困難でした。
特別診の後は抄読会で、今回は視覚失認を統覚型と連合型の二つのタイプに分類する概念を提唱したHeinrich Lissauerの論文を取り上げました(Lissauer H. “Ein Fall von Seelenblindheit nebst einem Beitrag zur Theorie derselben” Archiv für Psychiatrie, 21, 222-270, 1890)。この論文はLissauerが29歳の時に発表したものですが、彼はその翌年に30歳の若さで亡くなっています。南会津病院の高橋嶺馬先生がこの論文を丁寧に解説してくれて、視覚失認についての議論が盛り上がりました。2年生を中心に大勢の学生さんが参加してくれましたが、初めて聞くような内容に対して、鋭い質問がたくさん出たことはとても印象的でした。
抄読会の後は、十条駅近くのイタリアンレストラン Shushudaで懇親会を開催しました。6年生は国家試験を終え、春休み期間ですが、4月から医師としての新たなスタートに向けて期待と不安が入り混じる様子で、先輩医師から様々なアドバイスをもらっていました。
この会は5回目になりますが、興味をもって参加してくれる若者がどんどん増えていることに驚きを感じています。実際の診察と古典の精読という組み合わせが今のところうまく機能しているように感じていますが、古典を一通り読んだ後は、その後の展開を追う形で重要論文を取り上げていこうと思います。
参考文献:
Martha J. J Farah “Visual agnosia, second edition”. MIT Press. 2004
鈴木匡子. 神経心理学コレクション「視覚性認知の神経心理学」 医学書院. 2010
< 戻る