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第7回神経心理特別診

 4月の神経心理特別診も、内外から多くの方にご参加いただきました。今回は1症例をじっくり診察しました。重度の片麻痺がある方で、事前情報として「皮質下出血による左頭頂葉病変」ということだったので、Gerstmann症候群と失語の評価を行いました。リハビリ科スタッフの評価ではMMSE 16/30で、serial 7は5点減点でした。失算の有無が問題となりましたが、MMSEのserial 7での失点は多くの場合、全般性注意や作業記憶の障害によるものです。今回の症例も全般的に情報把握の困難が見られましたが、WABの計算課題ではカードを見ながらでも半分程度が誤答であり、失算の要素があると判断しました。

 また、事前情報では右半側空間無視が指摘されていましたが、BITの通常検査では明らかな半側空間無視は確認されず、急性期に見られた症状が軽快していると考えられました。WABの読み書き・復唱項目では、復唱は長文のみ保持困難が見られ、読みも長文の読解で誤りが確認されました。書字は左手で施行したため評価が困難でした。

 WABには、漢字の偏と旁を言って漢字を答えてもらう課題と漢字を言ってその偏と旁を答えてもらう課題があります。例えば「女偏に家」は「嫁」、「村は木偏に寸」といった具合です。今回の症例ではこの課題の成績が特に悪く、文字形態の想起・保持の障害が示唆されました。重度の片麻痺、軽度の全般性注意障害、失算、漢字の想起障害の組み合わせから、どのような病変が想定されるか議論となり、画像を確認したところ、左中心回皮質下白質の出血性病変で、血腫の後方領域への圧迫効果や浮腫の影響、連合線維の損傷の可能性が挙げられました。学生さんにとってはBITやWABは初めて触れる検査で、神経心理検査の施行方法を学ぶ貴重な機会となりました。

 診察の後の抄読会では、独協医大に移籍したばかりの高橋嶺馬先生が、Carl Wernickeの1874年の論文 “Der Aphasische Symptomencomplex” を取り上げました。のちのWernicke-Lichtheimモデルにつながる失語症の基礎的概念を提唱した重要な論文です。何より、軍医だったWernickeがTheodor Meynertのもとに弟子入りし、わずか半年でこの論文を書き上げたという事実に、一同感嘆しました。

 抄読会後は、十条の居酒屋「ほり」で懇親会を開きました。大勢の学生さんのほかに、初期研修を始めたばかりの先生方、獨協医大からはるばるお越しいただいた3人の先生方、帝京平成大学の永井先生とそのお弟子さん、さらに前回に続いて横浜からご参加くださった国際派院長の小林絵礼奈先生など、年齢も地域も出身校もさまざまな参加者の間で、おいしいお酒をいただきながら活発な情報交換が行われました。

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