第6回神経心理特別診
神経心理特別診も今回で6回目となり、参加者も徐々に増えてまいりました。今回は、医師国家試験を終えたばかりの卒業生に加え、多くの学生の皆さん、当院リハビリテーション科スタッフ、そして獨協医大と横浜市大、帝京平成大学の先生方にもご参加いただき、盛会となりました。
当日は2名の患者さんの診察を行いました。
1人目の患者さんは、左頭頂葉に脳梗塞を認め、角回・縁上回を完全に含む病変でした。右半側空間無視、構成障害、漢字に優位な失書が目立ち、診察では半盲と半側空間無視の評価について解説しました。書字では構成障害と保続が目立ち、角回病変での純粋失書の典型と異なる点について議論が交わされました。 左右の手による書字の差異やTrail-Making testで目標を逸脱する所見について病態を皆で考えました。頭頂葉の症候の複雑さを実感する症例でした。
2人目の患者さんは、両側前頭葉に占拠性病変を有する方でした。意識レベルは保たれていたものの、病前と比べて活気が低下し、アパシーが疑われました。透視立方体の模写での障害や失算など、頭頂葉症状を思わせる所見がみられ、前頭葉病変によるmass effectが示唆されました。
特別診の後には抄読会を行い、今回は獨協医大の小林聡朗先生がBalintの原著論文(1909年)を解説してくださいました。詳細な心理検査の記録を通して、100年以上前のブダペストの病院での診察風景が目に浮かぶような臨場感あるれる論文です。現代の視点から見ると、右半側空間無視と同時失認が共存する症候と考えられますが、当時はまだ半側空間無視の概念は確立していません。それでもBalint先生の記述は視覚性注意の本質を照らし出しています。
毎回のことながら、発表者が原著を丁寧に読み込み、わかりやすく解説してくださることが本会の大きな魅力です。今回は学生からベテランまで幅広い層が参加し、診察症例ともつながるかたちで「注意」という現象の奥深さについて、楽しく学ぶ機会となりました。
抄読会のあとは、穏やかな春の宵を味わいながら十条の「源」へ場所を移し懇親会を開催しました。医師国家試験に合格したばかりの池末さんと高川さんも参加し、まずは合格を祝しての乾杯です。4月から社会人として新たな一歩を踏み出す二人を、参加者全員で祝福しました。初参加の獨協大学・土屋先生からは、初期研修に向けておすすめの参考書リストを教えていただき、特に学生たちにとって有益な情報交換の場となりました。また、大和市の国際クリニックの小林絵礼奈院長もご参加くださいました。絵礼奈先生は東北大学の高次脳機能障害学教室で大学院研究を行った神経心理のエキスパートであり、タガログ語やタイ語で診療を行う国際派の先生です。そして当科の神林先生と大学時代の軽音楽部仲間という不思議なご縁もあります。学生さんたちはみな絵礼奈先生のエネルギッシュな話に引き込まれていました。
参考文献:
Rudolph Balint. Seelenlähmung des Schauens, optische Ataxie, räumliche Störung der Aufmerksamkeit. Mschr. Psychiat. Neurol. 25;51-81, 1909.

< 戻る